小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

「原田先生は美鈴ちゃんのこと好きだよ。見ていればわかる。なにもないわけじゃないんでしょ?」

 文恵さんはじいっと私を見て返事を待っている。

「キ、キス、はしました……」

 文恵さんはそれを聞いてプッと吹き出した。

「はあ、もう。これじゃ先生も大変だ。先生はウブな美鈴ちゃん相手だからゆっくりやるつもりなんだよ。びっくりさせてごめんね」

「い、いいえ……」

 文恵さんは笑いながら出て行った。私は先生が、実は最近全く私と接触しないのには、何か理由があるんじゃないかと気づいていた。最近病院に泊まることが増えてきたのだ。メールには向こうに泊まったほうがいいと思うからとある。

 元からストーカー対策と先生の縁談破棄のために始まったのだ。恋人のフリをしながら同棲しているだけ……。問題はすでに解決した。

 しかも、彼が私に触れなくなったのは、その縁談が破棄された日以降だ。先生は問題が解決されて私と別居したがっている?今まで、深い関係になっていないのもそういうことだったのかもしれないと今更ながら思い至った。

 本当の恋人のように見えるようにするって言ってたじゃない。私ってどこまで馬鹿なんだろう……先生はもしかして自分から言いづらいから私が出て行くと言うのを待ってる?

 そうだよね、今のままだとベッドだって共有する必要ない関係だもん。かえって、疲れているから一人で寝たかったよね。

 よく考えたら、結局アパートも解約していないし、荷物も半分以上あちらにある。一度あちらに帰りたいと言ったときも、危ないからもう少し経ってからと一緒に行こうと言われて結局そのままだ。

 柊さんはもう転院しているし、問題は何もない。

 私は密かに決心して、その日帰宅した。
< 125 / 226 >

この作品をシェア

pagetop