小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

「そうだな。俺としてはできるだけ行きたくないんだが、父は俺に来てもらいたがっている。病気のためにも精神的にそのほうがいいだろうというのが弟の考えだ。まあ、確かにそれはわかるんだが、こちらも色々あるからね」

 私は思いきって聞いた。

「先生はどうして行きたくないんですか?お父様と名字も違うし、何かあったんですか?」

 先生はお酒を飲んでいた手を止めて私を見た。

「美鈴。僕は君と真剣におつきあいをしているつもりだ。君と別れるつもりもない。つまりいずれ家族の話は避けて通れないと思っていたんだ。少し聞いてくれるかい?」

 そう言うと、先生はご両親が離婚に至った理由やお父様の再婚に関係する病院の再建とそれに関わる病院の利権など難しい話を始めた。

 私は最初の話を聞いて手が白くなるほど握りしめた。きっと顔色も変わっていたに違いない。先生は私を見ないでお酒を見ながら話している。だから気づいていないのだ。

 最初の病院を廃業した原因が幼稚園ぐらいの男児の死亡だったというのだ。間違いない。ひー君のことだ。
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