小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

父と息子《弘樹side3》

 
 夕べの美鈴は住田病院へ訪問図書に行くことをひどく怖がっていた。父に会うからだろうと思っていたが、どうしても引っかかっていた。

 そして、思い出したのだ。あの絵本のことを……この間夜に見かけたあの絵本。

 俺は己の馬鹿さ加減に呆れるばかりだった。どうしてあのとき美鈴が持っていたのをなぜ偶然の一致だと思ったんだろう。

 すっかり忘れていたのだ。もちろんその絵本のことも、あの少女のことも……。

 だが、あの瞬間に記憶が蘇った。絵本だけじゃない、座っていた美鈴が俺を見上げたあの瞳。

 絵本とあの瞳を見て忘れていたことをうっすらと思い出したのだ。

 昔、両親がまだ一緒に住田小児病院をやっていた頃のことだ。患者さんが手術中に亡くなった。幼稚園の男の子だ。

 その日のことはよく覚えている。俺は帰ってこない両親を病院へ見に行った。

 手術室へ向かう廊下でその子の姉にぶつかった。顔見知りだったその子はいつも絵本を廊下で読んでいた。

 その時、俺に縋り付くと弟が死んだと泣きながら告げて本を落としたまま去って行った。
< 176 / 226 >

この作品をシェア

pagetop