小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

 噂も広まって、病院をたたむ事が決まった。ギクシャクしていた両親はそれを機に別れを選択した。

 俺は一人っ子でその時まだ小学生だった。父は寂しがったが、母について行った。

 父は小さい頃から俺の憧れだった。優しく子供達に接して慕われていた。友達にもあんなお父さんがいて羨ましいと言われ自慢だった。いつか俺も子供を助ける医師になると自然に思っていた。

 父はその後再婚して、継母の実家の大きな病院の援助を受け住田病院を再建した。母の事を思うと正直複雑だった。

 その病院の庇護に入れと言われるのも、縁談を突きつけられるのもまっぴらだった。

 そう、再婚し、新しい家庭のある父のことは忘れようと思っていたのだ。だから、あの男の子の姉のことも忘れようと思ったのかもしれない。

 間違いない、あれは美鈴だ。小さいときの面影が重なった。名字は父に確認すればわかるだろう。

 それに俺は彼女の家族についてなにも聞いていない。お母さんとの死別やお父さんに家庭があることは最初同棲のときに少し聞いただけだ。最近の彼女の悩みようは、父のことだったのだろう。

 彼女はおそらく弟さんが亡くなった時やお見舞いに毎日母親と来ていた記憶が鮮明にあるのだろう。お母様も相当の打撃だったに違いない。早くに亡くなっているのも、もしかすると関係があるのではないかと怖くなった。
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