会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
「お、重すぎる」

 おもわずつぶやいてしまった。

 背中から倒れ込んだわたしの上に、彼が馬乗りになっているのだ。重いのは当然である。

「クソ女っ! おまえのせいだ。おまえがおれを陥れたんだ。カニンガム公爵家を奪ったんだ。このクソ女っ、殺してやる」

 彼は、もはや正気ではない。狂気に支配されている。

 左手でわたしの襟首をつかみ、右手は天井に振り上げている。彼の狂気じみた白い顔の向こうに、年代物のキャンドルシャンデリアがボーッと浮かび上がっている。

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