会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
「やめろ」
「ぎやああああっ」

 彼の拳が左頬に当たる、と思った瞬間である。

 鋭い制止の声がし、ほぼ同時に世にも怖ろしい悲鳴が起った。

 これもまた一瞬だった。

 世にも怖ろしい悲鳴を発しているバートが宙に浮いた。文字通り。同時に、わたしの体からいっさいの圧がなくなり、軽くなった。

 宙に浮いたバートは、そのまま空中を舞った。これもまた文字通り。

 そして、彼は居間のガラス扉のすぐ手前に落ちた。これもまた文字通りに。

「ズズン」、という家鳴りのような音を響かせて。

 そして、彼は動かなくなった。
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