見知らぬ彼に囚われて 〜彼女は悪魔の手に堕ちる〜
『……今度こそは嫌がりながら相手をさせられる君を直に見られると思っていたのに、すぐに分かってしまったね。つまらないな』

 そう声が聞こえたかと思うと遠くでレオナの名を呼んだ“彼”が笑いを含んだ表情で顔を歪め、その姿はゆっくりと霧のように掻き消える。

 気付けばレオナは元の部屋にいて、あの巨人がしていたとおりに姿の戻った愛おしい彼の腕に抱かれていた。

「残念だよ。君を連れては行けない、君の心は全く闇に染まらなかったから。……僕のものになる人間なんて、やはり居ないんだ」

 そう寂しげに言葉を残し、異形の姿は徐々に闇に溶けていく。
 そして影も残さず消えたのだった。



 彼の姿は戻り、レオナの病は消え去った。

 思い返せば、あの“異形”は本当に悪意だけだったのだろうかとレオナは考える。

 もしかしたら“彼”なりの、愛情を示す相手を探すためだったのかもしれないと、今となっては思うけれど……
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