女風に行ったら、モテ期がきた

癒しが欲しい

石川ミキ37歳。独身。大学を卒業して大手企業の営業所に地元採用で就職、資格を生かし経理課で事務をしている。

両親は小学生の時に離婚しており、3年前に母が亡くなってからは、2LDKのマンションでひとり寂しく暮らしている。

ちなみに、定職に就かず浮気を繰り返し、母に見切りをつけられて離婚された父とは音信不通で、どこで何をしてるかもわからないし、興味もない。

ひとりで私を育て、こうして住む場所を残してくれた母には感謝してもしきれない。だが、私がこの歳になるまで独身なのは、母の口癖が少なからず影響していた。

『男なんて、ろくなもんじゃない』

実際、私の記憶の中の父は、ろくなもんじゃなかった。

母の財布からお金を抜いて家を出て行き、酒と香水の匂いをプンプンさせて朝帰りする。子供ながらに、母は何故こんな男と結婚したのだろうかと思っていた。

今思えば、父はモテそうな容姿をしていた気がする。背が高く整った顔で、そこはかとない色気もあったようななかったような、、もはや記憶は曖昧だ。

結局、母は面食いだったのだろう。だから結婚に失敗したのだ。

それでも懲りない母は、父の遺伝子を多く受け継いだらしい私の容姿を気に入っていたようだが、私はそれを毛嫌いし、絶対に父のような人間にはならないと常に自分を律し、堅実な生活を送ってきた。

その結果が今である。

地味で真面目な私だが、友達はそれなりにいた。けれど、そのほとんどが30歳前後で結婚し、今では立派なお母さんになっている。

お互いそんなつもりはなくても、生活のリズムが違う既婚者と独身者では、自然と会う機会が減っていく。久し振りに会ったとしても、共通の話題が少ないことに気づき、更に距離が開いた。

母がいた頃はまだ良かった。友達との時間が減っても、家に帰れば話し相手がいる。でも今は、母がいないのだ。

仕事を終え、誰もいない真っ暗な家に帰るのは、思っていたより寂しいものだと知った。

プライベートを充実させてみようと、ジムに通い始めた。休日にカフェ巡りをしたり、ひとり旅にも挑戦してみた。どれも、悪くはないが良くもない。私の心のすき間は、ひとり時間では埋まらないらしい。

ならばペットでも飼おうかと考え、ネットで検索してみる。

「猫より犬が好きだけど、犬は散歩が必要だしなあ。何々?猫はしつけが難しく、爪を研ぐ習性があって壁や家具が傷つくおそれあり、か。うーん、でもやっぱり猫の方が現実的かなあ」

ナチュラルにパソコンの画面に向かって独り言を呟く。独り言にしてはまあまあな声量だった、我ながら少し引く。これは一刻も早くペットを飼う必要があるかもしれない。
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