女風に行ったら、モテ期がきた

鉄壁のディフェンス

発作が起こる度に会社を早退するわけにはいかない。まだしばらく発作は続くのだ。何かしらの対策が必要だろう。

私は、父親似の容姿を目立たせぬよう、とにかく地味であることを、昔から心がけてきた。

眼鏡をかけ、髪はお団子にまとめ、化粧も最小限。服は地味でシンプルなものを選ぶ。友人以外とは敬語も崩さない。とっつきづらさが私の売りだ。

今までは、これで問題なくやれていたのだ。

だが今回、眼鏡を外し、髪を下ろすことを決意した。絶対、誰かに何かを言われるとは思うが、仕方あるまい。

眼鏡を外せば視界が悪くなるので、単純に刺激が減るだろう。それでも万が一エロテロリストが暴れ出したら、長い髪で顔を隠せばいいのだ。いわば、鉄壁のディフェンスと言えるのではなかろうか。

この作戦が功を奏し、なんとか人並みの生活を取り戻した。

お局社員の突然のイメチェンで、以前より話しかけられる頻度は上がったが、大事には至らずに済んでいる。

「ミキさん、せっかくイメチェンしたのに、メイクや服装も変えなきゃもったいないですよ!絶対美魔女になれるのにー!」

後輩の菜々美(ななみ)ちゃんが、ランチの途中、興奮気味に話を振ってきた。まだ24歳の彼女はとても人懐っこくて、何かとかわいい。

「菜々美ちゃん、これはイメチェンじゃないって説明したでしょ?最近頭痛が酷いから、少しでも刺激を減らしたくてこうしてるのよ?」

「そうだった。頭痛はどうですか?少しは良くなりましたか?」

彼女のこういうところがかわいい。

「そうね、おかげさまでだいぶいいわ」

「良かったー。今日は暑気払いだし、体調悪いと最悪ですもんね!営業部は高城さんの同期の人が幹事だったみたいで、今年は営業部と合同らしいですよ?」

へーそうなんだ。ま、どーでもいいけど。

「人数は多くなるけど、営業部はイケメンが多くてウキウキしちゃいますね!高城さん、ナイスって感じ」

「菜々美ちゃん、彼氏いるんじゃなかった?」

「ミキさん、イケメンは別腹ですよ?」

菜々美ちゃんは意外と肉食系だ。若いって素晴らしい。

私は持病を抱えているので、今日は隅の方で極力目立たないようにしなくては。

あ、何もしなくても、私はいつも目立たないんだった。安心安全。今日は心穏やかに、ビアガーデンを満喫しよう。
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