悪女がお姫さまになるとき

5、眠れるお姫さま

 アストリア王国は貿易中継地として外貨を獲得する貿易国である。
 白波がたつ湾には、入港を待つ貿易船が浮かぶ。道路が葉脈のように張り巡らされ、雑多な色屋根が混ざり合った港町の全貌を望める高台に、白く輝くアストリア王城が屹立する。


 馬車の窓の向こうには馬車と同じスピードで騎士たちが疾駆する。
 首を伸ばして前方をみると、先頭はセドリック騎士隊長、その横に騎士見習いが、蹄の音を響かせ青いマントをはためかせている。

「危ないからおとなしくすわっていろ。俺が有能な魔術師であったとしても首と胴体が離れたやつを生き返らせることはない」
「そうだ、言い忘れていた。肘と膝のひどい怪我を治してくれてありがとう」
「包帯をぐるぐる巻きにした助け手なんて恰好がつかないからな」
「首と胴体が離れてしまう以外なら、なんでも治せるの?」
「そういうわけではない。治療する相手に強い光の命があれば、魔術との相乗効果で治療できるが、人によって内側に持つ光の質は違う。すべての者を君のように一晩で治せるわけではない」
「異世界からわたしを見つけ引き寄せ、治療ができる。他に魔術師は何ができるの?」
「国を守るために槍になり盾になる」

 具体的に火を放ったり、雨を降らせたり、といったことを期待していたわたしはそっけない返事に拍子ぬけする。
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