極悪人の抱き枕になりました。
伊吹は夏波に念を押して寝室へ向かおうとする。
夏波は慌ててそれを止めた。


「手当をしてからじゃないとダメだよ」


咄嗟にそんな心配をしてしまうのは夏波の性格のせいだった。
昔から困っていることをほっておけない。

そのせいで損をすることも多いけれど、後悔したことはなかった。
母親は夏波のそんな性格をお父さんとそっくりだと言って笑った。

優しくて気の弱い父親のことを、いつもうとんでいたからだ。


『夏波、人に優しくしすぎると甘く見られてバカにされるよ。だからお父さんはずっと平社員のままだったんだ』


それが母親の口癖だった。
祖父母が建てた家にいつまでも暮らし続けないといけない生活も、嫌だったようだ。

だからお父さんが病死してからのお母さんはすごく奔放な性格になった。
ずっとやっていたスーパーの品出しのパートをやめて、男にたかるようになった。


『こういう仕事のカタがずっと楽だ。お母さんに合ってるんだよ。私がもっと若ければ、夏波くらい若ければもっともっといろんな男から金を出させることができたのに』


そう言って夏波のことをなめるように見るときもあった。
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