婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
 どういう事だろう?
 彼女の態度にわざとらしさを感じないのは。
 彼女は本気だ。本気で可笑しいと感じているし、私と友達になりたいとも考えている。
 何故かそれが、手に取るように分かってしまった。

 この娘は、一体……何?

 頭の中にいくつもの疑問が生まれ、消えてくれない。
 破裂しそうな程の疑問、疑惑に苛まれてしまい、頭痛に襲われそうになった時、私はそれを振り払うように口を開いた。吐き捨てたかったのだ。

「ラーテン様は死んだわ。もう貴女の愛した方はいないのよ」
「ええ、あの御方は立派に御役目を果たされました。少々、寂しゅうございますが、十分な愛を語らう事も出来ましたので、その時間を下さったお嬢様には感謝をするべきですわね。ありがとうございます」

 何がそれ程面白いのか、微笑みを絶やす事無く、スカートの裾を持ち上げて御辞儀をして見せる。

「一体何を言っているの? 役目? 貴女、何者?」

 私は必死だった。目の前にいるこの少女があまりに得たいの知れないものだから、心がざわついてくる。体に熱が帯び始め、警告はけたたましい。
 彼女は首を傾げると、すぐに戻し、あの笑みのまま答えた。
< 29 / 34 >

この作品をシェア

pagetop