選んでください、聖女様!

4

 翌日、朝から自宅に騎士が来て、登城の要請があった。一体なんなのだろうか。そう思いつつ、朝食のパンを齧る。

 昨夜、ティールから謝罪された。リディスのことがずっと好きだったのだと隠していたこと、姉の私が幸せになれるならばと身を引こうとしていたこと、リディスの言葉が嬉しかったこと……妹のことなのに、何も知ろうとしていなかったのが恥ずかしくなった。でも、あの時にはもう気持ちの整理も出来ていた。自分には夫の候補が三人もいる。彼らの内、誰かをリディスが後悔するくらいに愛してみせると誓ったこと。それらをティール話した、
 その後、久しぶりにティールと一緒にベッドで寝た。沢山お話もして、楽しかった。

 そして今日、聖女としての聖務を果たそうと思っていたのにも関わらずの登城要請……ふざけてます? と言いたい所だが、国王陛下の命令ならば仕方がない。セラは朝食を済ませ、騎士と共に登城していったのだった。



「突然の呼び出し、本当に済まない」
 キラキラと眩しい金髪水色目の青年が謝罪してくる。セラは首を横に振り、静かに頭を垂れた。
「そんなことございません。クリスタス殿下」
 そう、何故か第二王子のクリスタスとアンディ、そしてユーゴスと夫候補の三人が案内された部屋に集まっていたのだ。アンディと目が合うと、にっと笑顔を返された。昨日の告白のこともあり、うまく表情が作れない。サッと顔を赤らめながら逸らしてしまった。
「私達『夫候補』から時間をかけて選びたいという君の想いに答えようと、自己紹介の場を設けたかったんだ」
 クリスタスはそう言いつつ、紅茶のカップに手を伸ばす。
「改めて、僕はクリスタス・フォン・ミスティリア。この国の第二王子だ。君とは過去に何度か会っているけど……覚えているかい?」
「あ、はい。覚えています」
 結界を張る礼拝堂で何度か顔を合わせている。そう答えると、クリスタスは嬉しそうに頬を染めた。
「私は王宮仕えの魔導士、ユーゴス・ゴルドクスです。年は皆さんより年上の二十四です。火と風の属性が使えます。妹さんは地でしたよね?」
「はい。父譲りの地属性です」
 ティールは聖女としての力を遺伝していないから、普通に魔法が使える。といっても、聖女由来の魔力の高さは持ち合わせているので聖女補佐のナンバー二だ。
「となると、私と結婚したら三属性の魔法が使える子どもも夢ではないですね」
 にこりと凄い発言をしてくるユーゴスに、セラは乾いた笑みしか出なかった。ちょっとこの人は苦手かも……。
「んじゃ、最後に俺だな。と言っても自己紹介は不要だろうけど一応。アンディ・コドルだ。第二騎士団の隊長をしている」
 簡潔に自己紹介をするアンディに、セラは昔と変わらないなと感じられた。
「さて、夫候補が三人集まったんだ。取り決めを用意しないか?」
「取り決め、ですか?」
 クリスタスの言葉に、ユーゴスが耳を傾ける。アンディに至っては首を傾げていた。
「うん。抜け駆け防止。といってもいい。三人の中から選んでもらうんだ。プレゼントを渡すなど、平等性を持たせたいんだ」
「平等性ねえ……」
 クリスタスの発言に、アンディは面倒くさそうにしている。一方、ユーゴスは賛成だと発言した。
「我々も多忙の身ですからね……アンディ氏だけは幾分、我々よりも時間がとれる。そうなると、平等性に欠けますからね」
「そうか? まあ、そう思うならそれでもいいぜ」
「ありがとう、アンディ君」
 多数決というのもあり、セラの目の前で何故か取り決めが決められていく。これ、私がいる意味なくね?
「取り敢えず、プレゼントは皆で一斉に同じものを渡すこと。週に三回、ローテーションでセラさんとお茶の時間を設けること。これは僕の方で場所と食事とかは準備をしておくよ」
「助かります」
「あざす」
 セラ本人の前でセラを放って決まっていく取り決め。本当にいる意味あるのか? これ……。
「セラさん」
「は、はいっ」
 忘れられていたと思ってぼーっとしていたセラは、慌てて返事をする。クリスタスは微笑みながら、言葉をかけた。
「週に三度のお茶会の場を設けることにしたけど、順番はどうしたいか君に決めて欲しいんだ」
 それはつまり、順番を決める為に呼ばれていたということか。セラは悩み、すぐさま答えた。
「えっと、じゃあ……ユーゴスさん、クリスタス殿下、アンディで」
「おや、最初は私ですか。光栄ですね」
「はは……」
 本当は苦手だから最初にしたのだが、それは黙っておこう。クリスタスも苦手と言う訳ではないが、少し話しづらい。そうなると、自然と会話ができるアンディを最後にしてしまった。
 何故かアンディは不満そうな顔をしているが……気のせいだろう。
「では、お茶会は三日後に。セラさん、今回の登城、ありがとう」
「いえ、では失礼します」
 椅子から立ちあがり、部屋から出る。出る際に部屋の中を見たが、少し物々しい感じがした。
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