選んでください、聖女様!

7

 聖女としての聖務を終え、登城する。今日は待ちに待っていない、お茶会の日だった。二日に一回と決められたお茶会だが、乗り気ではない。それもその筈、最初に選んだのは、苦手意識のあるユーゴスだからだ。
「よく来てくださいました」
 ライトグリーンの髪に紫の目。眼鏡をかけ、少しだけ長い髪を一つに纏めた普段通りのユーゴスに、セラは何とか笑顔を作った。
「今日はよろしくお願いします」
「さあ、座りましょうか」
「はい」
 言われて、腰を下ろす。目の前には豪勢な美味しそうなお菓子の重ねられたティースタンドがある。口の中に涎が溜まっていく。
「お菓子でも食べながらゆったりしましょう」
「は、はいっ」
 気遣ってくれたのか、お菓子を取って貰いひと口食べ出す。甘いクリームに舌鼓しながら、顔を綻ばせた。
「甘いものは好きですか?」
「はい。ユーゴスさまは?」
「ユーゴスで結構ですよ」
 そう言われても、年上の人に敬称なしで呼ぶのは気が引ける。
「じゃあ、ユーゴス、さん?」
「ええ、そうしましょうか」
 美形に微笑まれ、思わず頬が赤くなる。怖いと思っていた印象も、話してみたら少しずつだが薄れてきた。
「ユーゴスさんは甘いもの好きですか?」
「ええ。食べるのも好きですし、幸せそうに食べる人を見るのも好きです。あなたみたいにね」
 恥ずかしいことを堂々と言える大人ってすごい……っ。セラはそう思った。
「そ、その……ユーゴスさんは、なんで夫候補に名乗りを上げたんですか?」
 そう訊ねると、ユーゴスは紅茶にミルクを入れ、スプーンで混ぜだした。
「そうですね……興味があったから、でしょうか」
「興味、ですか?」
「ええ。聖女と言う存在に、です」
 スプーンを置き、カップを持ち上げる、口を付けひと口飲むその姿も優雅で、思わず見とれてしまう。
「この国は聖女に頼り切っています。私はそれをどうにか出来ないかの研究をしています」
「研究、ですか?」
「ええ。聖女にだけ頼ることのない、新たな方法を探す研究です。といっても、まだまだですけどね」
 カップをソーサーに戻しながら苦笑するユーゴス。確かに、この国は聖女に守られて他国との戦争を回避している。だが聖女がいなくなったら? それをどうにかしたいのが、ユーゴスの研究なのだろう。
「それ、すごいですね……」
「え?」
「だって、普通はみんな考えないですよ。聖女に頼らないで国を守る方法なんて、この国では考える人もいないですよ」
 聖女を守ることには特化しているが、聖女に頼らない方法を模索しようとするなんて、普通なら考え付かない。そう考えると、ユーゴスは凄い魔導士だ。
「……そう言ってくださったのは、貴女くらいですよ」
「そうですか?」
「ええ……嬉しいです」
 本当に嬉しそうに微笑まれ、セラの顔が真っ赤になった。び、美形の笑顔は反則だと思います!
「セラさん」
「は、はいっ」
 思わず背筋を伸ばしてしまう。ユーゴスは微笑みながら、セラの手を握ってきた。
「興味本位でしたが、あなたのことがもっと知りたくなりました。……どうか、私にあなたのことをもっと教えてくれませんか?」
「っ」
 握られた手を、ぎゅっと握られる。真っすぐ真剣な視線を送られ、真っ赤になっていた頬が、更に赤くなった。
 こんなの、反則だよ!
 セラの中で、ユーゴスに対する何かが変わった日となった。
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