返して

2

「雨?何?」

「どうした?」

「何か、冷たいものが。なに?これ。ぬるぬるしてるー!」





「僕の目玉、知らない?」

「え?キャッ。何?」


 暗くて、良く見えないけど、人の形をした生き物が、こう言って、背後から襲ってくる。

 追ってくる生き物と、私の距離は、近い。

 逃げようとするけど、怖くて、暗くて、疲れて、腰が抜けて、座り込んで、急いで立ち上げれない。

 
「さぁ、逃げよう!」


 キイロが、私の手を握って、逃げる。

 その間にも、得体が知れないものは、ゆっくり追いかけて来る。










「キイロって、そんなに足、速かった?」

 私とキイロは、息切れしながら、灯りがある場所まで戻ってきていた。



「部活で、鍛えてるからな」

 キイロは、私に、足を見せてきた。


「自慢?はい、よく鍛えましたね」

「何?それ。可和。もっとちゃんとほめてよ。」

「キイロに仕返し。帰りたかったのに」

「それな、ごめん。でも、肝試し、できたでしょ?怖かっただろ?」

「あの時は、怖かった。お墓の後ろから、出て来るし」

「とりあえず、可和の希望も、叶えたし、帰ろう」

「帰ろうって、キイロ、冷静になって、考えたら、あの追ってくる得体のしれない、生き物は、人間だよね?しかも、キイロの友達」

「違う。誰か知らない」

「嘘、下手くそ。待っておこうよ」

「帰ろう。あの生き物、勝手に帰れるって。可和も、帰りたがってただろう」

「それと、これとは別!っていうか、灯があるから大丈夫。怖いのも落ち着いたから」

 キイロは、早く帰りたい感じだった。


「誰か、わかないけど、こんな暑い中で、待ってたのだと思うの」

「俺は、早く帰って、可和と…」

「キイロ、何、言ってるの?待つよ。キイロも」


 帰ろうとするキイロを、制止した。


 







「わッ。誰?暗くて見えない」


 私は、電信柱の陰から、その生き物を、驚かした。



「どうして、あんなこと、したのよ」

 
 私は、その生き物の頭に被せてた黒い袋を、外した。


「だって、キイロに頼まれたから。ちょっと怖く、驚かせてって。ごめん。その後は、キイロが、可和さんと…んんん・・・」


「キイロ、ユキさんにそんなこと、お願いして。まったく!キイロ、ユキの口、塞いだら駄目。キイロの考えそうなことだね」

「僕が、したかったことだし。少しでも、驚いてくれてたら、うれしいな。こんなに、暑くて、見えにくく、しんどかったことは、初めてだけど」


 確かに、ユキが、被ってた袋は、目の場所の穴が、小さく見にくそうだ。


「驚いたし、怖かったから、成功よ」

「可和さん、そう言ってくれてありがとう。絶対、車いすのモータ音、聞こえてただろうし。紙袋、被ってたのも気付いてたでしょう?」

「暗かったから、本当、あの時は怖かったのよ。でも、ごめんね。ユキさんも嫌だったら、言ってね。見にくかったよね。電動車いすの運転も、危ないだろうし」

 
 私は、ユキさんに、謝った。

 ユキさんは、電動車いすを使っていて、頑張り屋だけど、自分の力を過信し過ぎて、たまに無茶をする。



「もし、自分で、紙袋外せなくて、大変になったら、どうするの?キイロも、謝りなさい。そして、今後、こんな危ないこと、お願いしないで!」




「可和さん、ごめんなさい」

「はい。可和様。ユキ、ごめん。うまかったよ、さすが、演劇部。今度も、よろしくな」


 私に、頭を押さえられて謝る格好になった、キイロだった。

 後半部分は、私の手をよけて、頭を上げ、ユキさんに、にやりとした表情を向けてた。


 
 ちなみに、ユキさんは、キイロの友達なのだ。

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