君は私のことをよくわかっているね
 天龍様は少しずつ少しずつ、わたくしを自由にしてくれる。ありのままのわたくしを受け入れて、わたくしが彼に惹かれてもいい理由を用意して、たくさんの逃げ道を与えてくれた。――逃げることを許してくれた。


「いいのかな……?」


 後宮から――龍晴様から逃げ出してもいいのだろうか? 許されるだろうか?

 わたくしはこのまま、誰にも愛されずに終わりたくない。心のままに誰かを愛し、愛されてみたい。狭い後宮から飛び出し、もう一度、広い世界を見てみたい。

 天龍様は微笑みながら、力強くうなずいた。


「一緒に行こう。私が桜華を自由にするよ」


 それはあまりにも甘すぎる誘惑の言葉。抗うことなんて絶対にできない。

 生まれてはじめて自分以外の誰かの唇に触れる。
 柔らかくて温かい。――それから、ほんの少し甘くてしょっぱい。
 止めどなく流れる涙を天龍様が優しく拭う。


(わたくしは天龍様と、幸せになりたい)


 心の底からそう思った。
< 52 / 76 >

この作品をシェア

pagetop