君は私のことをよくわかっているね
「……そんなに喜んでくれるなら、もっと早くにこうしていたらよかったね」


 彼はどこか困ったように微笑む。わたくしは首を横に振った。


「いいえ、龍晴様。わたくしやはり、こうして龍晴様と朝をともにする喜びは、妃たちのものだと思うのです」


 だからこそ憧れた。だからこそ夢を見た。
 今はもう、それが叶わないことを知っているし、驚くほどにどうでもいい。あんなに執着していたのがまるで嘘のようだ。


「ですから龍晴様、今後はこれまでどおり妃たちと食事をなさってください。……そうしていただきたいのです」

「桜華……やはり君は、私の特別な女性だよ」


 龍晴様はおもむろに立ち上がると、わたくしのことを背後から抱きしめる。胸が痛い。目頭が熱い。わたくしは必死に涙をこらえた。


「光栄です。龍晴様にそんなふうに言っていただけて、嬉しいです」


 彼が愛してくれたのは、本当のわたくしではなかったのかもしれない。愛情の形だって、わたくしがほしかったものでは決してなかった。

 それでも、わたくしは龍晴様のことを愛していた。こんな感情を教えてくださったこと、とても感謝している。


(ありがとう。そして……さようなら)


 もう二度と、お会いすることはないでしょう。
 心のなかでそっと呟いて、わたくしはわずかに目を細めた。


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