君は私のことをよくわかっているね
***


 朝食を終え、龍晴様を送り出してから、わたくしは妃たちの暮らす宮殿を一つ一つ回っていった。
 昨日魅音様が騒動を起こしたこと、その原因がわたくしにもあることを知っているから、みながどこか余所余所しい。


「桜華様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」

「そんなふうにかしこまらなくていいから。これまでどおりに接してちょうだい」


 気位の高い上級妃たちですらこの有様なんだもの。中級妃、下級妃はなおさらわたくしの顔色をうかがっていた。なんだかとても複雑な気分だ。

 嫉妬心にまみれていたとはいえ、妃たちとはこれまで、できる限り良好な関係性を築いてきたと自負している。最後がこんな形になって、少しだけ残念だった。



「今日は部屋に誰も入れないでね。用があるときはこちらから声をかけるから」


 たっぷり時間をかけて後宮内を回ったあとは、執務室にこもって筆を握った。

 妃同士にも派閥や序列がいろいろある。龍晴様の夜のお相手を決めるときには、体調面も含めて、相当気を使ってきた。

 だから、わたくしがいなくなったあとも後宮が後宮の機能を維持できるように――できる限り現状を把握して、資料を残してあげたいと考えたのだ。

 時間が思ったよりも残っていない。わたくしはひたすら筆を走らせた。


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