君は私のことをよくわかっているね
 そうしていくうちに、この5年間の思い出が、走馬灯のように思い出される。

 豪華絢爛な建物。美しく艶やかな女性たち。
 それから、誰よりもまばゆい輝きを放つ龍晴様。

 羨ましいと思ったこと。
 妬ましいと思ったこと。
 ――それからほんの少しの優越感。
 そのたびに自分の醜さに絶望して、何度も何度も涙を流した。

 だけど、悲しいことだけではなかった。嬉しいこと、楽しいことだってちゃんと存在していた。

 それに、こんなわたくしを受け入れてくれる天龍様に出会えたんだもの。もう振り返らない。前を向くってそう決めたんだから。


「失礼いたします。あの、桜華様……」

「――ちょっと待って。まだ入っちゃダメよ」


 ためらいがちなノックの音。わたくしは部屋の前に侍女を留める。
 一枚一枚墨を乾かす時間が惜しくて、床にはまだ、書くだけ書いて整理されていない資料が散らばった状態になっている。さすがにこれは見られたくない。わたくしは思わず立ち上がった。


「けれど、陛下が……」

「陛下?」


 侍女の言葉に目を丸くしたそのとき、執務室の扉が勢いよく開け放たれる。


「龍晴、様?」


 そこには、どこか憤った様子の龍晴様がいらっしゃった。
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