君は私のことをよくわかっているね
 それから天龍様は元の姿に戻ると、未だ事態の飲み込めていない龍晴様を静かに見下ろす。龍晴様は言葉を失ったまま、わたくしたちのことを見上げた。


「天界……龍? まさか、そんなものが本当に存在するというのか? それじゃあ、私の祖先は――始皇帝は……」

「わかってくれたかな? 君たちが必死に守ろうとしている始皇帝――聖女の血は、私と同じ天界のもの。龍の血なんだよ。だから、私は君に跪かない。言うことを聞いてやる義理もないし、必要もない。当然だろう?」


 天龍様の言葉に、龍晴様が悔しげに拳を握る。なにか言い返そうとしたのだろう。何度も口を開閉し、それからそっと下を向いた。

 こうしている間にも、騒ぎを聞きつけた後宮の住人たちが続々と集まってきている。みな龍晴様と天龍様とを見比べながら、驚き、おののき、一様に膝をついていた。


「わかってくれたかな、龍晴? 君は桜華を傷つけた。私は君を許さない」


 天龍様がわたくしの肩を優しく撫でた。すでに傷は癒えているというのに、痛くて、悲しくて、涙がこぼれる。
 龍晴様はそんなわたくしを見つめながら、首を横に振った。


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