あの日の出会いを、僕はまだ覚えている
必死に心を静めて小さく深呼吸をする。
それなのに――。

「俺はずっと魚月ちゃんのことが忘れられなかった」

「……」

言葉を失うなんて経験は初めてだ。
信じられなくて海生くんを凝視してしまう。きっとバカみたいに口をあんぐり開けて驚愕の表情になっているはずだけど、それよりも言葉の衝撃が強すぎて表情なんて気にしていられない。

「……うそ?」

「嘘じゃないよ。まあ、迷惑かもしれないけど、俺は君に再会できてすごく嬉しく思ってる」

「迷惑なんかじゃ、全然ないっ!」

「ほらまた、頭を振る」

海生くんは苦笑しながらまた私の頭を両手で掴む。
ぐわんと揺れた視界が柔らかく止められた。
怪我してるんだから安静にして、私。

「私も海生くんに再会できてすごく嬉しいの。あのとき、引っ越すとき、私落ち込んでて、でもあの日海生くんに出会えたから、その思い出があったから頑張れた。ずっとお礼を言いたかったの」

そうだ、私は引っ越しが決まってからずっとモヤモヤとしていた。大好きな海の町から親の都合で遠くに引っ越さなくてはいけなくて、それが嫌でたまらなくてあげく魚になりたいなどと思いを馳せていた。

あの日、偶然にも同じ引っ越し仲間である海生くんに出会って励まされて、頑張ろうって思えたんだ。

その想いが、今もずっと心にあかりを灯している。
ゆらゆらと暖かなぬくもりをくれる。
海生くんに再会して、静かに身を潜めていた想いが溢れ出てくる。
< 15 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop