転生したら幼精霊でした~愛が重い聖獣さまと、王子さまを守るのです!~

3 精霊というもの

 奇妙な黒い鳥に遭遇してから三日間、ジーンはほとんどベッドの上で過ごした。体からすぐに力が抜けてしまって動けなかった。
 その間、イツキは冷たい水を汲んできたり甘い粥を作って来てジーンに食べさせたりしてくれた。りんごの木の手入れも代わりにしてくれているようだった。
「イツキさん。体もだいぶ良くなったのでもう大丈夫ですよ」
 彼が来て三日目、言葉を切り出したジーンを、イツキはベッドの脇で見上げる。
「お側に来てしまって申し訳ありませんでした」
 動物たちはイツキのことを恐れているようだった。以前は小屋に入って来たのだが、イツキが来てからは窓辺にすら近寄ってこない。
 ジーンはうつむいて首を横に振る。きっと彼が去れば動物たちの温もりやささやきは帰って来るのに、なんだか悲しかった。
 イツキは優しくジーンをたしなめて言う。
「私のことを気に留める必要はないのですよ。動物たちにとっては私も魔獣に近いのです」
「魔獣……あの、黒い鳥ですか」
 途端にジーンの心を恐怖がつく。思い出すだけで体が震えそうになる。
 イツキはジーンの恐れを察したのか、思案するようにつぶやいた。
「あなたの御身は私が守ります。けれどあなたが心穏やかであるには、私は魔に近すぎる」
 イツキは身を屈めてジーンの手を取ると、ジーンの目を見上げて言った。
「マナト……精霊の愛し人が側にいれば」
「まなと」
 ジーンは考えて、イツキに問いかける。
「そのひとの側にいれば、魔獣がやってこなくなる?」
「はい」
 ジーンが手探りのように言葉をみつけて呟くと、イツキは頷く。
「お任せください。すぐにさらって参ります」
 イツキは音もなく立ち上がる。立ち上がるとイツキはジーンより頭二つ分ほども背が高かった。
 その長身痩躯を折り曲げて一礼するイツキに、ジーンはふと問いかける。
「……さらって?」
 遅れてその言葉の違和感に気づいたジーンは、慌てて言う。
「あ、あの。さらっては、いけないと思います」
 イツキは怪訝そうに首を傾げた。少しひとの感覚と違う彼に、ジーンは慌てて言葉を続ける。
「わ、私からお会いするため参ります。どちらにいらっしゃるのですか?」
 そう問いかけたジーンに、イツキは事もなげにその場所を告げた。ジーンは思わず目を見開く。
 イツキが告げたのは、王族が住まう城塞の中心だった。
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