神様の寵愛は楽ではない

 「……傲慢なお前にふむ、なにか呪いをかけようか?その悶え苦しむさまを見てみたい。素直にわたしに愛されれば良かったものを」

 あらんかぎりの力を使って眼を閉じた。
 それでもまな裏に指先の残像が回っている。叫ぼうとしたが、舌は口蓋に張り付き、声がでない。
 がくがくと震える。

 「夜闇が溶け込んだかのような、ぬばたまの黒髪は、」

 艶のある自慢の黒髪が燃え上がり、ちりちりと醜く縮れ上がった。
 男は片眉をあげた。
 燃えるさまが男を楽しませる。

 「その軽やかで、伸びやかな脚はどうしようか」

 膝があらぬ方向に曲がって美奈は崩れおちた。

 「愛を誘うような指先、内側から発光しているかのような柔肌、耳に心地よい琴の音のような声、水盤に映された幾千の星を凝縮させたかのような瞳、若さ……」

 男が美奈の美貌をひとつひとつあげていく。
 顔にふれればその触感のありえないざらつきに、手を確かめた。
 指は節ばりこわばり、縮緬のしわが千も寄り、茶色く干からびていた。
 昔語りに語られる山姥のような手だった。そして顔も。
 振り返って、帝から贈られた銅を磨いた鏡で己の姿を確かめる勇気はない。
 美奈は身体が作り替えられていく恐怖に絶叫する。
 男は職人が自作の器をあれこれ試すように、思案げに、そして楽しげに、美奈の全てを剥がしていく。

< 7 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop