いつも側にいてくれたね


昨日は色々あって、いっぱいいっぱいだったの。

綾乃と初めて喧嘩した。

怖い思いをした。

直生のこと、たくさんたくさん考えた。

あ、遥生のことはすっかり抜けてたね。

「ごめん、遥生」

「夏芽の様子が分からないのって思た以上にしんどいんだかんな。俺、昨日眠れなかったし」

「そうだったの。連絡しなくて本当にごめんね。あ、そうだ! そのお詫びって訳じゃないんだけど」

私はスーツケースの荷物を出しながら、底の方に入れた遥生へのお土産を探した。

確かガラスが割れないようにタオルでぐるぐる巻きにして仕舞ったよね。

んーー、どこだ。

なかなか見つからないから、スーツケースに入れた服を全部取り出してお土産を探していたら、

「なんだこれ」

私がスーツケースから放り出した服を手に取って遥生がそれを広げている。

「あっ! それはダメ。見ないで。返して遥生」

「なあ、なんだよ、これ。これって夏芽の服だよな。なんでこんなことになってんだよ」

遥生が広げて見ている服は、私が昨日泥棒と揉み合った時に引きずられて破けてしまった服。

洗っていないから血もしっかり付いている。

「何があったんだよ、夏芽」

「なっ、何もない。ほんと、何もなかったもん」

「嘘つくなよ、夏芽。なあ、直生はこれ知ってんの?」

「直生は何があったかなんて何も知らない」

そう遥生に答えてからはっとした。

ずっと何もなかったって言い通せば良かったのに。

何かが起こったことを認めてしまった。

「直生は夏芽に何があったか知ってんだな」

私は無言で首を横に振った。

「直生は知らないもん。何もなかったもん」

「俺は直生に聞きに行ける。きっと直生は話してくれるだろ。それでも夏芽。俺は夏芽から聞きたい。どうして俺に隠し事をするんだよ。話してよ・・・」

本当はね、遥生には嘘なんてつかずになんでも話したい。

それでも、心配は掛けたくないって思うんだよ。


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