拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

「それならこの甘ったるい言葉はどこで使う? 闇世に咲く花のように美しい~だなんて」

 闇世に咲く花は暗くて見えない。月明かりに照らされて薄らぼんやりだよな。目を凝らすのか? よく見ないと分からない美しさ……そんなわけないよな?


「例えは必要だぞ。月の女神のように美しい。なんて普段は言わないが、ドレスアップしたレディを見るとつい口から出てしまうんだよ。息を吐くように褒めろ! 挨拶と共に褒めろ! ただ美しいだけより喜ばれるぞ」

 ……そうなのか。

「スマートに相手に伝えるのが一番だが、レディはそういった言葉を待っている。老いも若きも女性というのはそういうものだ」

 ……成程、勉強になった。


「なんだ? 騎士と令嬢の危ない関係って……」

「な、なんだそれ!」

 慌てて机の上の本を見る! マジか……と肩を落とした。


 はっはっは……とレオンの笑い声が部屋中に響き渡る。


「……なんだよ、笑わすなよ」

 腹を抱えて笑うレオン、あの司書は私に恥をかかせたかったのか!

「この事は絶対に言うなよ! 言いふらしたら左遷するぞ」

「職権乱用か? 言いふらしたいがやめておこう。今度奢ってくれ」

「分かった」

 ……こいつは約束は守る男だ。早々に奢ってしまおうと心に決めた。




 
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