拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

「披露宴は延期にして貰いましょうか……」

 お母様がぼそっと言いました。

「え? なぜですか」


「……あのね、妊娠は病気ではないのだけど辛いものなのよ。もちろん日々お腹が大きくなっていって赤ちゃんが育っていくという過程を経て幸せを感じるんだけどね……足が浮腫んだり顔が浮腫んだり大変なのよ。気分の波もあるわ。私達はまだ恵まれているからすぐに対処をして貰えるけれど、式の間中浮腫んだ足との戦い。披露宴はアルコールや香水の匂いで吐きそうになるし……お母様もリュシーがお腹にいたから、よ~く分かります」

 手をぎゅっと繋がれまっすぐ私を見て来ました。やっぱりそうだったのですね。子供の頃は何も思わなかったけれど、今改めてお母様の写真を見るとお腹が……

「おめでたい事だから、一緒にお祝いをしてもらったのだけど、良い顔をしない方もいらしたのよ。特にご年配の方ね。今は私達の時代とは違うのだから、先に親族だけで式を挙げられるようにして貰うのも悪くないと思うの。披露宴はこの子を産んでからお披露目も兼ねてやったらどう? その方がリュシーの体への負担も少ないわ。子供が出来た事は喜ばしい事だけどリュシーがまず元気な子を産まないと安心出来ないのよ」

 式が延期というわけではないのなら、その方が良いかもしれませんわね。結婚式のドレスも気に入っていますし着られなくなるのは惜しいですもの。

「レイ様に相談してみますわね。あちらの家の意見も聞かなくてはいけませんし」

 レイ様に、手紙を書くと仕事を終えてすぐに会いに来てくれました。公爵様と夫人も連れて…… 
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