前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す
 剣は公花に向き直り、少し柔らかな目つきになって言った。

「ここはもう大丈夫だ。家の人が心配しているだろう?」

「じゃ、帰ろっか。……あ、剣くんは……もう、うちに避難しなくても大丈夫ってこと?」

「……そうだな。後始末もあるし、放っておくわけにもいかない」

「そっかぁ」

 寂しいような、安心したような。
 にょろちゃんがいなくなってしまって、桃子ママとおばあちゃんは悲しがるかもしれない。

 たまには変身してもらって、遊びにきてもらえないかな――そんなことを考えていると、遠くからパトカーなどの救急車両のサイレンが近づいてきた。
 幕引きにはちょうどよい頃合いだ。

       *

 風間が家の前まで送ってくれて、血相を変えて玄関まで飛び出してきた桃子ママに、帰宅が遅くなった事情を説明してくれた。

 用意していた仮の事情――『ひったくりに遭って携帯の入った鞄を奪われてしまい、連絡ができないまま自転車でカーチェイスを繰り広げていた』という組み立てで説明すると、桃子ママはため息を漏らし、玄関先に座り込んでしまった。

「もう、心配したんだから……」
「ごめんね、お母さん……」

 今にも警察に届けようかどうしようかと迷っていたところだったらしい。
 おばあちゃんもさっきまで近所を探し回っていて、今は疲れて部屋で眠ったところだという。

 風間に礼を言い、帰ってもらった後もひととおり怒られて、それが終わってから「ハンバーグ、食べるわよね」と、温かいご飯を用意してくれる。

(そういえば、お昼からなにも食べてなかったよ……)

 忘れていた食欲が戻ってきて、あーんと大口を開けて頬ばっていると、桃子ママがわくわくしながら聞いてきた。

「で、さっきの子、彼氏なの?」

 盛大に吹き出してしまったハンバーグがもったいない。

「ち、違うからね!?」

 遠いどこかで誰かの目が、光ったような気がした――。
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