前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す

五転び目 曲芸と前世の記憶と懐かしい匂い

 体育の授業内容に、六月に開催される体育祭の練習が入ってきた。

 弥美雲学園は進学校で、どちらかというと勉学に重きを置くスタンスなのだが、優秀な生徒や校風は、結局「文武両道」に通じるものである。

 トップクラスの生徒の士気も高く、なにごとにも真剣勝負。
 また、成績が上位陣に及ばない生徒たちでも、ここでなら活躍できると張り切って、校庭はいつも以上に熱気が溢れていた。

 白線のトラック。スタートラインに立つ公花。

 体育教師が天に向けて放つ、ピストルの音。それを合図に土を蹴り上げ、走る、走る、走る!

 もともと足は速いのだが、強運スキルにより吹く追い風が、彼女に力を貸している。

 ゴールテープを切って、フィニッシュ。
 八十メートル走、公花は見事な一位だ。それもぶっちぎりのミラクル・ラン。

「おースゲェ……。ハム子おまえ、普段どんくさいくせに、足めちゃくちゃ早いのな」

 感心したように、ゴール地点で記録していた体育委員の生徒が言った。

「うん、まっすぐ走るだけなら、大得意!」

 体育祭でリレーの選手に選ばれることはほぼ間違いない。走ることは好きなので、大歓迎だ。

「キミちゃん、すごい! かっこよかった~!」

 走り終えた者たちが溜まっている列に寄っていくと、そこで待っていた仲良しの松下くるみが、手を叩いて褒めてくれた。
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