初恋カレイドスコープ

 あれから少し、自分でも調べてみた。まず、社長代理の元カノを名乗る女性による嘘投稿について。

 件のアカウントは私物のようで、作成されたのは二年前。遊びに行った場所や食べたものの写真、そしてお友達との写真が全部顔出しで載せられていた。行動範囲から見れば、少なくとも神奈川県内に住んでいるのは間違いないと思う。

 次にもうひとつのSNSの方。今なお着実に拡散が進む、小学校の卒業アルバムの写真。

 こちらの投稿主はアイコンを見るに男性で、アカウントは最近作成されたばかりのもの。個人情報についてはほとんど拾えなかったけど、例の投稿に最初に反応したのがある雑誌のアカウント……そう、以前波留さんと一緒に殴り込みに行った、あの不届きな三流雑誌である点が気になった。

 元カノを名乗る女の投稿。

 卒アルを晒す不審な人物と、それに呼応したアカウント。

 ほとんど同時のタイミングでの動きに、何か作為的なものを感じてしまうのは私だけだろうか。しかもこの女のSNS、少し前の投稿を遡ってみると、卒アルの投稿主らしき男と飲んでいる写真が見受けられるのだけど……。

「凛さん」

 真上から降り注ぐ声に、ハッと気づいて顔を上げる。

 困ったような颯太くんの顔。そうだ私、これから夕食へ行くために、駅で颯太くんと待ち合わせている最中なんだった。

「どうしたんですか。あ、SNSやってるんですか?」

「いや、これは仕事で」

「仕事? ……ああ、あれですね。社長代理の元カノの告発」

 ふーっとため息を吐いて、颯太くんは私の手からスマホをそっと取り上げる。彼ももう知っていたのかと、情報が巡るスピードの速さになんだか薄ら寒い心地がする。

「ねえ凛さん。もう仕事は終わったんだから、社長代理のことを考えるのはやめましょうよ。どんなに凛さんが頑張ったって、残業代なんて一円も出ないし、得るものだって何もないんですから」

 呆れたような表情の中には、明確な怒りが見え隠れしている。嫉妬……というよりも、未だに踏ん切りのつかない私への苛立ちといったところかな。

「……そうだね」

 颯太くんの言うことは正しい。退社後に仕事のことをあれこれ考えても仕方ないし、今こうして颯太くんといるのに、いつまでも社長代理のことを考えているのは失礼だ。

「ごめん、もうやめるよ。今日はどこに行くんだっけ?」

「今日はイタリアンですよ! あそこのパスタはボリュームあって、俺、昔から大好きなんです」

 麺類か。ラーメン食べたいな。

 頭の中にちらとよぎった豚骨の香りを振り払い、私は笑顔の仮面をかぶると颯太くんの隣を歩き出した。
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