ハイドアンドシーク
「えっと、はい、それだけです」
「身軽にもほどがあるだろ」
「それは、……」
荷造りする時間がほとんどなかったから。
お気に入りのぬいぐるみも、前の学校の友達と撮ったプリクラも。
なにもかもあの団地に置いてきた。
「……はあ」
押し黙っていると、床から段ボールを拾い上げた東雲さんが迷うことなくそれを押し付けてきた。
「ほらよ」
「き、急に渡さないで……って、重!」
1箱に収まるようにぎゅうぎゅうに詰めたからだ。
その重さによろけた瞬間、さっきまで頭を占めていた団地の景色が自然と遠のいていく。
「少なくともこれはお前のものだろ」と東雲さんは言った。
「自分の荷物は自分で持て」
「……うん」