ハイドアンドシーク


「えっと、はい、それだけです」

「身軽にもほどがあるだろ」

「それは、……」



荷造りする時間がほとんどなかったから。


お気に入りのぬいぐるみも、前の学校の友達と撮ったプリクラも。

なにもかもあの団地に置いてきた。



「……はあ」


押し黙っていると、床から段ボールを拾い上げた東雲さんが迷うことなくそれを押し付けてきた。



「ほらよ」

「き、急に渡さないで……って、重!」


1箱に収まるようにぎゅうぎゅうに詰めたからだ。

その重さによろけた瞬間、さっきまで頭を占めていた団地の景色が自然と遠のいていく。



「少なくともこれはお前のものだろ」と東雲さんは言った。



「自分の荷物は自分で持て」

「……うん」


< 14 / 219 >

この作品をシェア

pagetop