ハイドアンドシーク


「や、やだ。東雲さんと一緒の部屋になりたくない」


抱えていた荷物を取り上げられる。

あっけなく手放してしまったそれを、東雲さんは邪魔にならない場所に下ろしながら口を開いた。



「なるしかねーだろ」

「やだ!」

「やだじゃねえ。じゃあお前、自分が女だってこと四六時中隠し通せんの?万が一バレたときも──」


肩に触れられたと気づいたときには、すでにベッドに押し倒されていた。

慣れた手つきでシーツに手首を縫いとめられる。




「その気にさせた男の力に敵うわけ?」

「……っ」


やだ、も、やめて、も。

なんの言葉も出ないまま、目の前の冷ややかな双眸を見つめ返すことしかできないでいると。



「は、抵抗すらしねーじゃん。そんなんでよくやだとか言えんな」


するりと手首の拘束が解かれる。

それ以上なにも言わず、東雲さんは部屋を出ていってしまった。


わたしも無言のままベッドから起きあがって。

なんの痕もついてない手首を、そっと撫でる。


自由になったはずなのに、心も身体も重かった。




「……しないもん。抵抗なんて、するわけない」



そのあと荷解きを終え、

夜が更けても寝ずに待っていたけれど。


とうとう東雲さんが帰ってくることはなく。


見知らぬ土地、家主のいない部屋。

慣れないベッドとシーツに身を包まれながら。




わたしは転校初日……いや、

────逃亡1日目を、終えた。



< 19 / 150 >

この作品をシェア

pagetop