通学路
 学校へ行くのが楽しくなったのは、あの出会いがあったからだろうな、と渡部(わたべ)琴梨(ことり)は思う。

 小学四年生の時に、近所に引っ越してきた同級生の赤坂(あかさか)敬斗(けいと)が、毎朝琴梨を迎えに来るようになった。一番の仲良しだった友達が学校のすぐそばに住んでいたことと、引っ込み思案で一緒に登校する友達を誘えずにいたことで、琴梨はそれまでずっと一人で通学していた。
 小学生からすれば、片道四十分の道のりは結構きつかったけれど、敬斗とお喋りしながらの通学は楽しくて、大好きな時間になった。

 中学生になり、学校までの距離は更に遠くなったが、中学生の足なら今までと変わらず四十分というところだ。
 入学式の朝は緊張したけれど、敬斗がいたから不安は紛れた。約束したわけでもないのに、当たり前のようにまた二人で通学していた。
 一週間後には、部活動が始まった。琴梨は吹奏楽部、敬斗はサッカー部に入った。吹奏楽部の朝練は週に三日、サッカー部は毎日朝練があり、敬斗と一緒に登校するのは、琴梨も朝練がある週三日だけになった。

 ある日、いつものように家の玄関を出ると、敬斗が自転車に跨がって待っていた。

「なあ、自転車でいかねえか?」
「え? 見つかったらやばいよ」
「大丈夫、上手くやるから」
「でも……」
「ほら、早く乗れよ。置いてくぞ」
「えっ、やだ、待って!」

 敬斗に急かされ、琴梨は慌てて後ろに跨がった。

「落ちんなよ」

 後ろ手で腕を掴まれた途端、琴梨の心臓がドクンと跳ね上がった。敬斗はそれを自分の腰に巻き付けると走り出した。
 徒歩四十分の道のりは、自転車だと十分ちょっとで、あっという間だ。琴梨はそれが残念でしかたなかった。
 そうして一年が過ぎた。

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