王子がお家に住み着いた!
自分の体にのしかかる適度な重み、さらりと頬を擽る男性の髪は月明かりに透けて銀に輝き仮面越しに合う瞳はまるでルビーを嵌め込んだ···

思わずそんな“危険な夜”を連想してすぐに我に返る。

銀髪にルビー色の瞳って···

「ま、まんま殿下で想像してしまったわ···」

ある種の絶望を感じながら思わずそう口から漏れる。
その呟きを顔を寄せていたリリーが聞き逃すはずもなく。

「あら?エメも殿下が好きなの?」
「え!?そんなこと···って、“も”?」

エメも、の“も”に引っ掛かりを覚え思わずそう聞き返すと、なははとリリーが笑う。
令嬢らしくないこの笑いを私の前でだけしてくれるリリーが大好きだ。

「あ、私はもちろん違うわよ?でも殿下はあの見た目だからファンが凄く多いみたい。弟君であるベネット殿下は金髪だから、太陽と月のどっち派?みたいな話も多いんだから」

ちゃんと王宮で暮らしているルイス王子の弟君、ベネット王子は光を集めたような金髪にアイスブルーの瞳がとても美しい。
皇后陛下の息子であるルイス王子とは違い側室の息子であるベネット王子だが、明るく人懐っこい人柄も相まってとても人気が高いのだが。

「太陽と月···ってのはわからなくもないけど、ベネット王子はまだ8歳、よね?」
「今から粉かけとけばワンチャン!っていう事かしらね」
「はぁ···」

世の令嬢達のアグレッシブさに少々引きぎみだった私をスルーして、でも、とリリーは話を続ける。

「でも、エメが2人の殿下から相手を選んだら、選んだ王子が次期国王になるわね」
「う···!」

王国唯一の公女、という肩書きは、王子の後ろ楯には強すぎる。
他の公爵家に女の子が産まれれば偏りは分散されるだろうが、現状公爵家を後ろ楯に出来るのは私の結婚相手だけだからだ。

そしてその結婚相手が王子だったならば、それは確かに王位継承が誰よりも近くなるということで···。

「確かにベネット王子を選んだとすれば、側室の子であっても王位継承あり得るわね。逆にルイーズ王子を選べばルイーズ王子の地位は確固たるものになるでしょう」

静かにそう告げる私の真剣な表情に釣られてリリーも真剣な表情になる。

「でもね。そもそもベネット王子は8歳よ、ちょっと···ないわ···」
「だよねー!」

真剣な雰囲気をぶち壊して二人して椅子の背もたれに体重をかけた。
そもそもこういう話自体がスキャンダルになりそうなものだし、椅子の背もたれに体重をかける姿もあまり上品ではないが、親しいリリーの私室でメイドも含め全員下がらせているからこその会話である。
誰もいないからこそリリーの口から仮面舞踏会なんて単語が出た訳だが。


「じゃあルイーズ殿下は?さっき想像したって言ってたじゃない?」
「ルイーズ王子もなしよ!」
「なんで?」
「だってそれは···」

毎日寝所を共にしてるのに、男女の仲どころか口付けすらないのだ。
そんなの····

「望みが無さすぎるわ····」
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