地に白が注がれた。
バイト終わり。ポテトの油の匂いが少し染み付いた手に手袋を付けて、自動ドアを通る。スマホの時間を確認しようとした時、母からメールがあった。
『今日給料日よね?もう受けとった?お母さん今日も集まりがあるから、いつも通り台所の引き出しに入れて置いてね。』
うん。分かったよ。返事はそれだけ。
母がおかしくなったのは、兄が自殺した日からだった。1歳上の私の兄は、昔から気が弱く、学校でもいじめられていたらしい。それを知った当時の兄の担任は、目を背け続け、兄の唯一の友達だった近所の女の子も、いじめが始まってからは一切関わってこなくなったらしい。家族が大好きだった兄はもちろん家族に相談することも無く、限界が来ていたようだ。兄が修学旅行に出かけてから、家に帰ってくることは無かった。帰りの電車に乗る際、同級生の目の前で線路に飛び込んだらしい。その日から私の母、いや、両親ともに何かが狂い始めた。父は、元々それなりにあった貯金を崩してギャンブル狂に。歌舞伎町に入り浸っているようだ。母も似たようなもの。夜中の2時までホストクラブから帰ってこない。そのままホテルインして朝まで帰ってこないなんてよくある事だ。私のバイト代もそれに使うお金の足しなっているのか。父にその事がバレると、お金が奪われるかもしれないから、わざわざ台所に隠させているのだろう。そんな生活が始まってからもう二年。高校三年生になった私はもちろん大学進学なんて考えていない。勉強はそれなりに頑張っていたため、それなりの高校に入り、それなりの成績を残している。家族の事情なんか知らない担任や友達には、いや、友達は嘘。居なかったわ。担任からは未だに定期的に呼び出され、進路について話をされる。三者面談なんかできるわけも無いので、こうして私だけに話がされる。そういえば昨日配られた最終進路希望調査の紙、どこやったっけな。そんなことを考えながら、無駄に遠回りをしながら家に帰る。家に近付くにつれて気分は重くなる。家に入ると、溜まりに溜まった生ゴミの匂いが鼻腔を刺激し、慣れた吐き気に襲われる。
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