前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 何度目かの訪問で、ルティアはとうとうリーヴェスに会うことを決めた。決めざるを得なかった。リーヴェスが諦めなかったことと、両親からの勧めをこれ以上拒めなかったから。

「ようやくあなたにお会いすることができました」
「……」
「すみません。何度もしつこく訪ねてしまって……それでも、どうしてもあなたに会いたかったんです」
「いえ……わざわざご足労いただいて、申し訳ありません」
「私が好きで会いに来ているのです。どうぞ気にしないでください」

 本当はすぐに帰ってほしいと言いたかったが、リーヴェスが礼儀的に振る舞う以上、強引に追い返すわけにはいかなかった。国内にいなかったとはいえ、爵位は彼の方が上である。

(でも、何を話せばいいかわからないわ……)

 公爵といると、どうしても前世の記憶が蘇り、重苦しい気持ちになる。もともと自分から話す方ではないが、彼の前だと余計に言葉が出てこず、会話が途切れがちになってしまう。

「ルティア嬢は、孤児院によく訪れているそうですね」

 しかしリーヴェスはめげずにルティアの趣味や興味のあることを話題にしてくる。

「そうなんですの。お菓子も自分で作ったりして、子どもたちに持っていったりしているんです。子どもたちの喜ぶ顔がとても可愛らしいんですって」
「うちの娘は本当に優しい子なんですよ、閣下」

 口下手なルティアに代わって、両親が必死で会話を繋げようとする。リーヴェスも柔らかい微笑を浮かべて返す。

「それは子どもたちも嬉しいでしょうね。ルティア嬢はとても優しい女性なんですね」
『あなたは冷たく、傲慢だ』

 憎しみと軽蔑の混ざった顔は、今や穏やかな優しさで塗り替えられている。演技か、本心からか……。

(いくらあなたが今のわたしを嫌っていなかったとしても……)

「ルティア嬢のような方を妻にできる夫君はとても幸せで、心強いでしょうね」

『私は王配としての義務を果たします。それ以上を求められても、同じ想いを返すことはできません』

「率直に申し上げます。ぜひ私の妻となっていただきたい。私に愛を捧げることをお許しください」

 両親が驚きの声を上げる。

 ルティアの心には、何も響かなかった。否、ただ強い拒絶感と嫌悪感が心を冷たく凍らせるだけだった。

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