前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

11、二度目の再会

(いっそ結婚した方がいいのかしら……)

 喧騒から外れて一人になったルティアは、ぼんやりと考える。

 普通の娘らしく結婚して、家庭を築く。考えてみれば、それが今まで育ててくれた親への恩返しともいえる。貴族としての血筋を次の世代へ繋げることも義務の一つだ。

 自分が修道院へ入ろうとしていることは、間違っているのかもしれない。

(でも、わたしは……)

 立ち止まり、目を瞑った。轟轟と音を立てて燃えていく炎の赤が瞼の裏に浮かぶ。狂ったように笑う声……女王アリーセの声も耳に聴こえてくる。掌には真っ赤に染まった血がべっとりとついて……。

 ルティアは大きく肩を揺らし、止めていた息を吐きだした。

(わたしは、結婚なんかしてはいけない)

 そしてたぶん、したいと思っていない。結婚した相手と子どもをつくることも、恐ろしかった。命懸けで産んだとしても、また前世のように亡くしてしまうかもしれないから……。

(あんな辛い思いをするくらいなら、一生独りで構わない……)

 でもこうして苦しみを両親も誰も知らない。生まれ変わったルティアは未婚で、婚約者の一人もいない。そんな状況で一体誰がこの恐ろしい思いを理解してくれるのか。

「ルティア嬢」

 名前を呼ばれた方を見れば、リーヴェスの姿が見え、今胸に抱いている感情と相まって、ルティアは不快な表情をしてしまった。

「どこか具合でも悪いのですか」
「いいえ、大丈夫です」

 背筋を伸ばし、近寄って寄り添おうとするリーヴェスから距離を取った。明確な拒絶にリーヴェスは傷ついた顔をするも、今は向き合う気力になれず、半ば背を向けた状態で、どうしたのかと尋ねる。

「母と叔母に言われて、わたしの様子を見に来たのならば、もう戻りますから、放っておいてください」
「そんなに……私のことがお嫌いですか」
「嫌いではありません」
「ではなぜ――」
「ですが結婚するほどの好意は抱いておりません」

 曖昧な表現は避け、はっきりと顔を見て伝えれば、リーヴェスは瞠目した後、どこか寂しそうな、泣きそうな顔をした。思わぬ表情に、ルティアは胸が痛む。だが一方で、なぜあなたがそんな顔をするのだと苛立ちと責める気持ちも抱いた。

「あなたは残酷な人だ。今も、昔も」
「……」
「私の言葉の意味がおわかりでしょう? それともまだ、知らない振りをなさるのですか」

 一歩、リーヴェスが距離を詰める。ルティアは先ほどと同じように後ろへ下がろうとしたが、その前に彼がルティアの細い腰を引き寄せた。

「っ……、閣下っ、おやめくださいっ!」
「陛下。あなたには、本当は記憶があるのではないですか」

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