前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

2、前世

 ルティアには、前世の記憶がある。

 彼女は一国の女王だった。夢の中で男が告げた、アリーセという名前だ。

 女王アリーセは一言で言えば冷酷無慈悲な暴君だった。

 初めから、というわけではない。幼少時代からただ一人の後継者として厳しい教育を施されても、アリーセは女王としての責務を怠りはしなかった。むしろ、苛烈過ぎたと言えよう。

 きっかけは、政略結婚で産んだ我が子の死と王配の裏切り。これが最後の引き金となり、女王は自国を強国にするためだと無茶な政策で民を虐げ、無能な臣下や自分を裏切ろうとした者たちを拷問し、処刑した。

 王配はそんな彼女を止めようとしたが、聞く耳持たず、もはや国が滅びることでしか救いはないとみなが絶望していたなか、あの夢の中に出てきた男が女王を殺したことで、悪夢は終わる。

 その男は奴隷だった。それ以外は……はっきりと思い出せなかった。アリーセ、と女王の名を呼んでいたので、もしかすると親しい間柄だったかもしれないが……奴隷と女王という関係性を踏まえると想像し難く、単に憎悪から呼び捨てにしただけかもしれない。

 とすると、アリーセが殺した者の親類だった可能性もある。

 いずれにせよ、男はアリーセを……ルティアを殺した。その後地獄へ堕ち、罪を贖うために何度も身を焼かれた……と思いたい。そう思うくらいには、今のルティアは前世の自分の行いを悔いている。いくらあの時の自分はまともではなかったといえ、やりすぎたと断言できる。

(わたしが前世の記憶を持って生まれてきたのも、忘れてはいけないためだわ)

 胸に醜い火傷の痕が残っているのもそうだ。

 神が前世での行いを決して忘れぬよう、二度と道を踏み外さぬよう告げているのだ。

 ルティアは神に警告されずとも、自分の罪を忘れたくない。己の所業を背負って生きていくつもりだ。
< 2 / 82 >

この作品をシェア

pagetop