前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

15、王子の襲来

 その日、屋敷は騒がしかった。

(何かあったのかしら)

 冬に備えて孤児院へ寄付するマフラーを編んでいたルティアが心配して様子を見に行こうとすると、家令の方から部屋と訪れた。

「お嬢様! た、たた大変でございます!」

 普段どんな時でも冷静沈着な態度の家令の慌てぶりに、ルティアはかえって冷静になる。

「落ち着いて。一体どうしたの?」
「テオバルト殿下がお見えなのです!」

 ルティアの手から毛糸玉が転がり落ちた。

 身だしなみに十分気を遣い、急いでテオバルトがいる応接間へ行くと、先に相手をしていた両親の姿もあった。

「やぁ、ルティア嬢!」

 テオバルトが立ち上がり、にこやかに挨拶する。以前王宮で会った時はラフな格好をしていたが、今回は貴族のようにフロックコートを着ていた。

「ルティア。もう大丈夫なの?」

 母の心配する顔にルティアは安心させるように微笑み、テオバルトと向き合う。

「テオバルト殿下。ご足労いただきありがとうございます」
「なに。俺があなたに会いたかったから押しかけたんだ。気にしないでくれ」

 さらりと告げた言葉に両親の方が固まり、ルティアは心の中で苦笑いした。テオバルトは全く気にせず、ルティアに座るよう促した。

「手紙と花束も、ありがとうございました」
「少しは気晴らしになっただろうか」

 自然と笑みを浮かべ、はいと答えていた。テオバルトも目を細める。

「よかった。ちなみに今回は王都で人気の菓子を手土産に持ってきた。ご家族と一緒に食べて、ぜひ味の感想を聞きたい」
「まぁ、ありがとうございます。よろしかったら殿下もご一緒にいかがですか」
「いいのか?」

 食べたいとその顔にははっきりと書かれており、ルティアは笑いを堪えながらメイドにお茶の準備をするよう命じた。

「正直に言うと、俺もすごく興味があったんだ」
「甘いものがお好きで?」
「ああ。すごく。だが城の料理人は己の腕に誇りを持っているからな。庶民に大人気の、とかいうものを食べたいと言うと、すごく嫌な顔をするんだ。この前こっそり食べようとするのがばれて、没収されてしまった。それで一週間、俺の苦手な料理ばかり出すようになったんだ。腕によりをかけてな」
「まぁ」

 テオバルトは一見どこかとっつきにくい雰囲気を纏っていながら、いざ話してみると実にさっぱりとした性格をしており、話しやすかった。

「わたしも昔、お祭りの時に食べた露店の菓子を美味しかったとふと漏らして、料理長を泣かせてしまったことがあるんです。それと同じようなものかしら」

 だからついルティアも肩の力が抜けて、あれこと話を広げてしまう。

 いつしか両親をよそに二人だけで会話が盛り上がっていることにも気づかないほど、ルティアはテオバルトとの会話に夢中になっていた。

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