前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
「ねぇ、ルティア。テオバルト殿下は素敵な方よね」

 王宮へ向かう場所の中で、景色をぼんやりと眺めていたルティアに母がおずおずと切り出した。以前も母はこうして娘に尋ねた。あの時はテオバルトではなくリーヴェスであったが。

「ええ。とても素敵な方だと思います」
「そうよね……」

 続きを言いたいけれど言えずに口ごもる母に、父が「ルティア」と改まった口調で引き取る。

「テオバルト殿下は親の私たちから見ても実に誠実におまえに接してくれている。その気持ちを傷つけるような真似はしてはいけないよ」
「あなた」

 それではまるでテオバルトに逆らわず従えというように聴こえると、母が肘で小突く。だが父はさらに続けた。

「そのことを踏まえた上で、身分や周りの言葉など気にせず、自分の進みたい道を決めなさい」
「お父様……」
「最後にどんな選択を出そうが、私たちは応援する。まだ迷っていたいならば、いくらでも迷ってもいいんだぞ」

 父の横顔を感激したように見つめていた母は我に返り、自分も同じ意見だと何度も頷く。

「そうよ。お父様もお母様も、ルティアが幸せになってくれれば、それが何よりだから」
「お母様……」

 ルティアは両親の温かい言葉に泣きそうになって、俯いた。

「わたし、すごくたくさんの人たちに迷惑かけてしまって……ごめんなさい」
「なに言っているのよ! あなたは生まれた時からずっといい子だったから、こんな時くらい我儘になっていいのよ。ううん。こんなの我儘のうちに入らないわよ」
「そうだぞ、ルティア。ファニーとフリッツに日頃手を焼いている私たちからすれば、むしろ微笑ましいくらいだ」

 ルティア、と二人は娘の名を愛おしげに呼んだ。

「私たちの可愛い娘、おまえの幸せを誰よりも願っているよ」

 前世では得られなかった両親の愛情に包まれて、ルティアはもう十分幸せだった。

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