前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
 その後彼は戦場へ出立する。戦況は当初我が国が優勢であった。だが敵国が周りの国々に助けを求め、援軍が派遣されると一年、二年、と想像以上に長引き、泥沼化することとなった。

 他国の領土を侵した戦争ならば兵を引く。だがこれは自国への侵略戦争である。アリーセは断固として降伏せず、諸侯、聖職者、上層市民から金をかき集め、すべて戦争を続けるために充てた。

 味方から不満が出ても、いっそ降伏を勧められても、聞く耳を持たなかった。敗戦国の辿る運命は悲惨だ。国すら消えてしまう可能性がある。

 だから女王の命令だと無理矢理彼らを黙らせた。ここは敵が提案した条件を呑むべきだという王配の言葉にも耳を傾けなかった。たとえそれで決定的な亀裂が生じても、アリーセは国の未来を優先した。

 アリーセの冷酷な判断により、数年後、嫌気がさした敵国は残った兵を引き連れて国へと戻っていった。辛勝だった。多くの爪痕を愛すべき国に残した。街は壊され、略奪、強姦とこの世の地獄が広がっていた。誰が死んで、生きているのか、確認することもままならない。

 カイは王宮へ帰らなかった。きっと、死んでしまった。

 けれど自分はまだ生きている。どれだけ肉体と心が悲鳴を上げていようが、生きている限り、王としての義務を果たさなければならない。自分は無理でも、次の王位継承者であるこの子だけは……

「陛下。残念ながらご息女はもう――」

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