前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

27、違う存在

 リーヴェスの目が大きく見開かれる。

「私を、許す?」
「ええ……。前世のあなたと今のあなたは違うから」
「私が、違う……」
「そうよ。あなたはもう、私の王配であったリーヴェスじゃない。キール・クローゼという、別の人間」

 ルティアはクローゼ公爵を悲しむような、憐れむような目で見た。

「わたしはあなたと再会してから、ずっとリーヴェスとしか見ることができなかった。ここはもう、あの時の世界ではないのに。あの時のあなたはもう死んでしまったというのに……」

 口にして、もしかするとテオバルトや自分自身にも言えるかもしれないと思った。

(テオバルト様は、カイではない)

 顔こそ同じで、似ているところはあるけれど、生まれ育った場所や環境、歩んできた道は決して同じではない。重ねてはいけないのだ。

「リーヴェス……いえ、クローゼ公爵。どうか前世の自分に呑み込まれないで。道を踏み外さないで」

 リーヴェスは信じられない顔でルティアを見つめた。

「あなたは……私を許すというのですか。前世で裏切り、あなたをあんなふうに追いつめた私を……」
「リーヴェスがわたしにしたことは、許すことはできない。でもそれは、今のあなたには関係ない。あなたは女王の王配でも何でもない。罪を贖う必要はないの」

 リーヴェスは唇を震わせ、何か言おうとして、けれど言葉が出てこないと食い入るようにルティアを見つめてくる。彼女はそんな彼を受け止める。

「それに生まれ変わった今だからこそ、わかるわ。わたしにも、よくない部分があった。あなたを理解しようと思わず、カイに心を許して――」
「違う! あなたは何も悪くない! 私がっ」

 あくまでも自分のせいだとリーヴェスはルティアに訴える。

「……例えそうだとしても、もう、前世の罪に囚われるのはやめなさい。わたしは……アリーセは生まれ変わってまで、あなたが苦しむことを望んでいません」

 何も言えず、リーヴェスは呆然とする。覆い被さるのをやめ、脱力した様子で俯く。ルティアはそっと身を起こした。

「……殿下に頼んで、今回のことは穏便に済ましてもらいましょう」

 リーヴェスは答えない。ルティアもこれ以上かける言葉が見つからず、とりあえず城の外へ出ようと思った。だが――

「あなたはどうなのですか」

 手首を掴まれ、強引に振り向かされる。先ほどとは違う、強くルティアを非難する表情を浮かべていた。それは前世で女王アリーセと言い争った時と全く同じ顔だった。

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