前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

36、晴れて婚約者に

 リーヴェス――クローゼ公爵はあの後無事に意識を取り戻したが、前世の記憶はすべて失っていた。どうしてルティアを誘拐したかも、本当の目的を思い出せず、混乱した状態のまま事情聴取を受け、捕えられることとなった。

 本人は自分が行ったことが信じられず、けれど罪を償いたいと大人しく罰を受ける姿勢だ。公爵に加担した貴族の男性も二度と社交界に……王家の前へ現れることができない処理をなされた。彼の子どもたちは父親に脅されたこと、良心の呵責に耐えられずルティアの居場所を教えたことで、当分の間自宅での謹慎が言い渡された。

 ルティアが攫われたことは王家の力でそれほど大きな騒ぎにはならず、彼女はほっとした。自分はともかく、家族に迷惑がかかるのは嫌だったから。

 ともあれ事件が片付き、ルティアはようやく安穏とした日々を手に入れた。

「ルティア!」

 庭先のロッキングチェアに腰かけて本を読んでいたルティアはテオバルトの声に顔を上げた。

「まぁ、テオバルト様。見事な薔薇ですわね」
「だろう? あなたに気持ちを伝えるのに、ぴったりだと思ったんだ」

 にこにこと笑いながらテオバルトは大輪の薔薇をルティアに手渡す。彼女はふふっと微笑みながらお礼を述べた。

「花に託して想いを伝えずとも、あなたのわたしに対する想いはもう十分伝わっておりますのに」
「ならいいんだが」

 部屋に飾ってくれるようメイドに渡すと、空いた手をテオバルトが取り、そっと口づけを落とした。

「あなたへの想いはいくら告げても言い足りない」
「……テオバルト様のおかげで、屋敷が花畑になりそうです」

 ファニーが「花屋さんが開けそうね!」と言っていたが、冗談でもなく本当に開けそうなくらい、テオバルトはあふれんばかりの想いをルティアに渡してくれる。

「気持ちを伝えることもそうだが、何より俺が花を受け取るあなたの姿が見たいんだ。可愛らしく、美しい人は花がよく似合うからな」
「またそんなことさらりとおっしゃって……」
「冗談ではないぞ」

 そう言うと、ひょいとテオバルトはルティアを抱き上げた。連れて行く場所は侯爵邸の庭にある東屋だ。そこが近頃二人の逢瀬の場となっている。

「一人で歩けますわ」
「たまにはこうして歩くのもいいだろう」
「もう……」

 ルティアの頬にちゅっと柔らかな感触が触れた。

「怒らないでくれ」
「怒っておりません。困っているんです」

 頬を撫でて、そっと口づけを返す。

「できれば唇がいいな」
「まだ婚約中ですもの。我慢なさってください」

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