その勇者を殺してください

自己犠牲

どこで狂ってしまったのだろう?

あれはたしか・・・彼が自分の命と引き換えにしてでもと

そんなことを言い出したころからだっただろうか?

自己犠牲

そこまでして・・・自分に何の得があるのだろう?

守りたい人でもいるのだろうか?

一緒に故郷に戻って静かに暮らしたいと思っていたけれど

たぶん彼はそれを望んではいない

少しは自分の幸せを考えたらどうだろうか?

そんなことを思う

神の加護を受けたから

それが使命

そんな教育を受けてしまった

結果がこれか

旅に出る前はもう少し人間味があったと思う

旅を続けて彼に残ったのは何だったのだろう?

もしかしたら彼は戦って死にたかったのかもしれない

・・・それは私が死んでも許さない・・・

私のために生きてもらわないと・・・生かし続ける

どんなに彼が死にたがっても

目が覚めた

隣で魔法使いの女性が倒れている

こいつの魔法は常軌を逸している

やはり眼球の・・・虹彩の魔法陣は確か悪魔と契約したら・・・とかそんな話を聞いた記憶がある

魔法使いではなくて魔女かなにかといった方が失礼がないかもしれない

勇者と魔王のいたであろう空間を見る

跡形もなく吹き飛ばしたのだろか?

斧と槍、格闘家の3人が転がっている

外傷はないから気を失っているだけかもしれない

こいつらはどうでもいい

魔王「まったく・・・魔女め」

裸の女性が立っている

・・・あれが魔王?

弓「あなたは・・・」

魔王「殺す気か?」

弓「だと思います」

魔王「・・・だろうな」

彼女の足元に人が転がっている

魔王「まだ生きてる・・・」

弓「・・・」

魔王「この死に損ない・・・どうする?」

弓「・・・どうしたら?」

魔王「・・・お前、どうしたいんだ?」

弓「わからない」

魔王「やれやれ」

魔法使いが目を開ける

魔法使い「あらら、あれでもダメだったか・・・」

魔王「お前・・・その目は誰と契約してる?」

魔法使い「ん・・・それは言えないかな」

魔王「たぶん私の契約した悪魔と同じだ」

魔法使い「だからか・・・」

弓「どういうこと?」

魔法使い「私の魔法ではダメージにならないってこと」

弓「は?」

魔王「あてが外れたってところか」

魔法使い「ご名答」

魔王「それで・・・次の手はあるのか?・・・服をダメにしやがって・・・」

奥の手がないわけではないけれど・・・

魔王「そうか・・・こいつ物理的に殺せば殺せるのか?」

いっている意味がわからなかった

・・・あぁ、そういうことか

細い女性の体に見えるけど勇者の剣を受け止めていた

ということは力は普通ではない

人なら簡単に殺せるのかもしれない

魔王「そろそろ終わりでいいか?」

やっと解放される

魔王「そうか・・・」

弓「?」

魔王「すこしこいつを預からせてもらう」

弓「え?ちょ・・・」

見えたはずの終わりが遠ざかったような気がした
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