身代わり婚約者との愛され結婚
“名前を告げる必要すらないと判断した場合は、ジョバルサンの裁量で私に聞かず追い返しているはず”

 その権利を彼に与えているし、それだけ信頼もしているからそこは問題ない。

 問題はないが……

“なら、何で今回は訪問を伝えにきたのに名前は教えてくれないのかしら”


 可能性は二つ。
 名前を伝えるほどではない訪問客が暴れ、エングフェルト家の私設騎士団員によって排除したいからか……

 
「まさか、ベネディクト?」

 私に関係があるものの、私に得とならない人間か――……


 そしてそんな人間に心当たりは一人しかおらず、その名前を口にするとジョバルサンはゆっくりと頭を下げた。


 はぁ、と大きくため息を吐くとジョバルサンの肩が少しだけ揺れる。


「ジョバルサンに怒っている訳じゃないわ。むしろ私のためにありがとう」

 名前は伏せられていたが、そもそも訪問があった旨はちゃんと伝えてくれているので彼の仕事としては何一つ問題はない。

 それどころか彼の気遣いに感謝すらした私は、

“ハンナといいジョバルサンといい、彼、婿に来る予定なのに嫌われすぎじゃないかしら?”
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