身代わり婚約者との愛され結婚
 逃げなくては、と思うのに一度強張った体は私の意思を受け付けない。

 ここで騒ぎを起こし、エングフェルト公爵家やニークヴィスト侯爵家に迷惑がかかるのは当事者なのだから仕方ないが……


“レヴィンやクラウリー伯爵家まで『当事者』にするわけにはいかないわ”

 そう思うと抵抗という抵抗も出来ず、ベネディクトに引っ張られる形でその宿屋の一室に足を踏み入れた。


「……どういうつもり?」
「うん? どういうって、どれが?」
「どれがって、それはっ」
 
 レヴィンの名前を出した以上何かは知っているはず。
 それがどれなのか、どこまでなのかわからず曖昧な聞き方しか出来ない。

 そんな私に対し、相変わらずどこか興味なさそうなベネディクトはドアの前で立ちすくんでいる私の腕を再び掴み部屋の奥へと連れて行く。

 
「ま、確認したらすぐわかんだけど。レヴィンとは最後までヤったのか?」
「なっ! し、してないわッ!」
「へぇ」

 さらりと爆弾を落とされた私が反射的に噛み付くが、それすらも興味なさそうなベネディクトは私を乱暴にベッドへ投げた。

  
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