身代わり婚約者との愛され結婚
「あー、流石に萎えた」

 ガリガリと後頭部を掻いたベネディクトが、サイドテーブルに投げていた自身の上着をバサリと羽織る。
 

「この部屋やるよ。けどな、ちゃんとわきまえろよレヴィン」

 ジロ、とレヴィンを睨んだベネディクトが、レヴィンに引っ付いている私の方に視線を動かして。
 

「火遊びくらい別にいいけど、選択を間違えんなよ。俺は恋人を作ることに反対はしない」
「ッ」
「俺が通行許可を出さなかったら、レヴィンの家は仕事の大部分を失うってことも忘れんな」


 ハッと鼻で笑ったベネディクトがそのまま部屋を出て行く。

 この状況で私とレヴィンを部屋に残したところを見ると、ベネディクトにとっても本当にただただ条件で合っただけの婚約なのだと実感した。


“俺が通行許可を出さなかったら? 家の力であって貴方の力じゃないくせに”

 だが、そう表現するのもあながち間違いではなくて。


「……ティナ、大丈夫ですか?」
「あ、えぇ。その、間に合った、わ」
「そうですか」

 最後までされていないことを遠回しに伝えると、あからさまにホッとしたレヴィンがぎゅっと抱き締めてくる。
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