身代わり婚約者との愛され結婚
 この違和感が気持ち悪く、まるで体を纏わりつくようなそのもやもやに心がズシッと重く感じる。

 それでも、私の手にはベネディクトとの婚約破棄の同意書が握られていて。


「このまま出しに行かれますか?」

“時間はあるわね”

 交渉に手こずると思いこの後の予定は入れていない。
 
 後で何かしらの理由をつけて覆されても困ると判断した私は、ほんの一瞬だけ嫌な予感がし躊躇ったものの――


「……えぇ、出しに行くわ。行き先を神殿の方へお願い」
「すぐに御者へ伝えます」


 私はそのまま神殿へ向かい、婚約時に交わした書類の破棄手続きを行うことにしたのだった。




 
 「拍子抜けだわ……」
 

 ニークヴィスト侯爵家からそのまま神殿へ直行した私は、神官に言われるがまま婚約破棄の手続きを行いエングフェルト家へと帰ってきて。
 
 
 そして現在、私室の机の上に乱雑に置かれた受理済みの書類が一枚。
 
 もうただの紙切れになってしまったその書類に視線を投げた私は、どこかまだ信じられない気持ちで呆然としていた。


“こんなに簡単に四年間が終わるなんて”

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