身代わり婚約者との愛され結婚

33.本物、というその響き

「今日から、ここが私たちの部屋なのね……!」

 ごくりと思わず唾を呑む。

 正式に婚約を結んでから共に生活を始めた私とレヴィンだが、当然結婚までは部屋は別々だった。

 
“けれど、今日から夫婦だもの……!”

 
 ハンナが念入りに湯浴みしつつ私を磨き、薔薇の香油でつるつるもちもちにしてくれて。

 ついでにこれでもかと言わんばかりの可愛らしい夜着を身につけた私は、先に来てしまった夫婦の寝室、それもベッドの前までやってきた。

 そんな私の視線の先には、赤くて可愛らしい花が沢山ベッドに飾られている。

“薔薇……じゃ、ないのね”

 勝手にこういう時のベッドに飾られるのは薔薇だと思い込んでいた私が不思議そうにその花を手に取った。

 花びらが大きな円を描くように開き、花の中心部の黄色が可愛らしい。

“あら? この花……”

 ふとレヴィンがプロポーズしてくれた時に貰った、今まさに左手の薬指で輝いている花と同じ形であることに気がついて。

「本物ってこんな色だったのね」
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