身代わり婚約者との愛され結婚
 メイドに声をかけられた私はまたもあわあわと焦りながら立ち上がりながら、こっそり懐中時計の時間を確認して。

「!」

“まだ約束の十五分前だわ”


 いつもキッカリ十分前に来ていたレヴィン。
 そんな彼がいつもより五分だけ早くやってきた。

 偶然かもしれないそんな小さな、気にも止めるほどではないその出来事なのに……

「レヴィンも、楽しみにしてくれていたってことかしら」

 もしそうだったら嬉しい、だなんて思った私は、自然と溢れる笑みを隠すことなく温室の扉を自ら開いたのだった。


 いつもは出迎えるだけだった私が突然扉を開けたからか、少し驚いたように見開かれた紫の瞳とバチリと目が合う。

 そしてすぐにその瞳を嬉しそうに細めた彼は、いつもと変わらない淡々とした口調で婚約者が仕事で欠席する旨を告げてきた。


「まぁ、今日もなの? 残念だわ」
「はい、なんてお詫びしたらいいのかわかりません」

 口先だけ残念がる私にくすりとレヴィンが笑みを溢して。


「お詫びと言ってはなんですが、こちらを。アルストロメリアの花束です」
「!」
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