身代わり婚約者との愛され結婚
 少し不服そうな顔を向けられるが、くすりと笑うとすぐにレヴィンの顔が呆れた表情に変わった。

「心配した、と言っているんです」
「幼い頃から何度も駆けた場所よ」

 次期公爵として、男性が学ぶことは一通りやりたいと駄々をこねたひとつが乗馬だった。

 今日は当時遠駆けの練習コースとして使っていたルートを辿るもので、どこに行くかがわかっている私とは違い完全に初見でついてくるレヴィンの方が大変だっただろう。


“だから、そもそも私に追い付かなくて当たり前なんだけど”

 それでもいつも落ち着いている彼が悔しそうにしているのは見ていて可笑しく、そして可愛いだなんて思ってしまって。


「馬たちも休ませてあげなくちゃいけないし、私たちも休憩しましょう」

 そう言った私が手綱を離すと、レヴィンがギョッとする。

「手綱を木に結ばないのですか?」

 勝手に湖へ水を飲みに行った私の馬と、まだ手綱を離すのに戸惑っている自身が乗ってきた馬を見比べたレヴィン。

 オロオロする彼はいつもより少しレアで、私の悪戯心が刺激される。

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